| 2003年10月15日配信:
オーガニック農業は、地球温暖化防止対策の最も強力な手段の一つになるであろう。ロデール研究所の23年に及ぶ農耕法比較試験場(FST:
Farming System Trial®)におけるオーガニックと慣行型の穀物生産システムの比較試験により、オーガニック農法または再生可能な農法では主要な温室効果ガスとされる二酸化炭素が減少すること――すなわち、オーガニック農業は、増加の一途をたどる温室効果ガスの増加を抑え、気候変動を和らげる重要な働きを担うこと――が明らかになった。
オーガニックシステムが重要な炭素吸収装置でありながら活用されていないという実状はさて置き、このシステムにおいては、慣行型のトウモロコシや大豆の栽培システムと比較して3分の1程度少ない化石燃料の使用量で済む。コーネル大学のデビッド・ピメンテル博士と共同で行ったFSTの研究によれば、農家がオーガニック生産に切り替えると、化石燃料の使用が削減されるため、温室効果ガスの排出量は減少するという。
慣行のダイズとトウモロコシの畝作栽培システムにおけるエネルギー投入の66%は、エネルギー集約的なハーバーボッシュ法(工業的に窒素に水素を付加させてアンモニアを合成する方法)により製造されるアンモニア肥料の生産のために費やされる。一方、オーガニックシステムにおいては、エネルギーに関する全費用の75%を、種の手配や投入のために使用でき、他の余計なことに無駄なエネルギーを使わなくて済むのである。オーガニック農法システムは慣行システムでは見られない冬期の被覆作物栽培が行われている。重要な炭素吸収装置であると同時に化石燃料への依存度が低いオーガニック農業は、今後全世界の農業に長期的な影響を与え、大気保全政策
及び計画において大きな役割を担うことになるであろう。.
1981年からのFSTのデータより、オーガニック農業を施した土壌では、1エーカーの面積(4,047平方メートル)の土地で深さ1フット(0.3メートル)の土壌を単位とするエーカー・フットの概念で1年間における土壌中炭素の平均増加量を算出すると約455キログラム/エーカー・フットとなる。
すなわち、1年間に隔離される二酸化炭素の量は約1,600キログラム/エーカー・フットである。仮に、米国内でトウモロコシ及び大豆を栽培している1億6,000万エーカーの農地に規模を拡大して算出してみると、従来の低投入型オーガニック農法によってこれらの作物の栽培を行う場合、2,600億キログラムの二酸化炭素が隔離される可能性が得られることになる。
FSTでは慣行型のトウモロコシや大豆の生産システムと、多様性に 富んだ低投入型のオーガニックシステムとを比較しており、それは現在行われている
この種の研究では世界で最も長期に及ぶ比較試験である。 低投入型のオーガニックシステムの性能に関する豊富なデータは、今回の重要な試験から得られたものである。
農地の土壌には二酸化炭素を捕え、固定あるいは隔離する大きな可能性があると考えられる。1995年の京都議定書では、農地の土壌が持つ能力にも、炭素隔離のためのオーガニック農業運営の重要性についても何ら強調されているわけではないが、農地の土壌が持つ可能性については言及されている。それ以来、研究者たちは、炭素を隔離する農業の実質的な可能性を裏づける研究を積極的に推進してきた。ロデール研究所は、炭素含有量を測定し、オーガニック農業が行われている土壌中での炭素隔離作用の顕著な効果を研究することで、前述の可能性をさらに進展させた発見を得た。
ロデール研究所の23年間に及ぶ研究結果により、オーガニック穀物生産システムでは、土壌炭素の増加は15〜28パーセントであることが明らかになっている。
さらに、この オーガニックシステムでは土壌窒素の増加は8〜15パーセントである。同期間の調査で、慣行農業システムでは、土壌炭素と土壌窒素のいずれも有意な
増加は認められなかった。土壌炭素と土壌窒素は、土壌生産力を決定づける重要な要因である。
作物のバイオマス(有機体としての総量)はほとんど同じなのに、なぜ、オーガニックシステムでは土壌炭素濃度が高くなり、慣行農業システムではそうならないのだろうか。その答えは、オーガニックシステムと慣行システムとでは土壌有機物の腐植化の速度の差にあると我々は考えている。オーガニックシステムでは炭素は土壌中に有機物として固定される上に、有機物の分解はゆっくりと進み、さらに二酸化炭素への完全な分解もゆっくりと進む。一方、慣行農業システムでは、可溶性の窒素肥料の使用が、炭素を含む有機物の腐植を(オーガニックシステムよりも)速め、有機物を二酸化炭素に完全に分解するのを促進するため、空気中に二酸化炭素として炭素が速く放散されてしまうのである。
加えて、土壌微生物の活動、特に菌根菌の働きは、有機物の腐植化を一定に保ち、腐敗を緩やかにするのを助ける重要な役割を担う。デビット・ダウズ博士の指導下で、米国農務省研究サービス(ARS)の研究者と共同研究を行なっている我々の農耕法比較試験場(FST)では、菌根菌はオーガニックシステム下でより活発に生息していることが明らかになっている。
これらの菌は、有機物と粘土および鉱物とを結びつけて土壌団粒を形成する働きがあり、これによって有機物が保護されるのである。
土壌団粒中では、炭素を含む有機物は、土壌中で遊離している状態の時よりも分解しにくくなるため保存されると考えられる。このような菌根菌の働きは、メリーランド州ベルツヴィルにある持続農業研究所(Sustainable
Agriculture Laboratory)の米国農務省の研究員たちに支持されている。彼らの発見は、菌根菌がグロマリンと呼ばれる強力な接着剤のような物質を生産することを立証するものである。このグロマリンは土壌を最大限に団粒化するための重要な物質である。我々は、グロマリンを土壌中の炭素固定のための重要な要素であると考えており、炭素隔離のこのメカニズムの研究をさらに進めているところである。
オーガニック農業の主要な目標は、土壌中に炭素を蓄積するために土壌有機物を増やしていくことである。オーガニック農業において、土壌の肥沃度を増し、植物の健康を促進させ、市場で競争力を維持できるだけの収穫量を支えることができるかどうかは、炭素の蓄積と微生物群集の活性化次第である。オーガニック農業のこの取り組みは自然の炭素循環を利用するものであり、この取り組みによって、市販の化学合成品の投入を減らし、エネルギー資源の効率性を高め、農家の経済収益を上げ、化学肥料と農薬が人間の健康と環境に及ぼす有害な悪影響を減らすことが目指されている。
上昇する地球の気温
氷河の氷に閉じ込められた気体の分析によると、1万
8,000年前の最後の氷河期(ウルム氷期)の大気中二酸化炭素濃度は、現在の大気中二酸化炭素濃度より60パーセント低かったことがわかる。この二酸化炭素濃度の低さは、当時の平均気温が現在より4℃低かったことと関連していると考えられた。現在では、大気中二酸化炭素濃度は19世紀の終わり頃より25パーセント高くなっている。もし現在の水準で二酸化炭素の排出が続くとしたら、大気中二酸化炭素は今後100年から300年の間に、2倍あるいは4倍にまでなるであろう。
1938年にG.カレンダーは、石炭、石油そして天然ガスなどの化石燃料の燃焼により世界の気温は上昇しているようだ、という示唆を与える発見を発表した。1958年から継続して、ハワイのマウナロア山で二酸化炭素濃度の測定を行ったところ、大気中の二酸化炭素は、毎年1.3ppmの割合で増加していることが確認された。大気学者は、地球の大気中に存在する何種類かのガスも地球温暖化の原因となっているが、地球温暖化の80パーセント以上は二酸化炭素によって引き起こされるものだと考えている。NASA(航空宇宙局)の科学者ジェームス・ハンセンは、過去の二酸化炭素濃度の変化と関連させて気温の変化を追跡し、過去100年以上に渡って、二酸化炭素濃度が25パーセント増加したことと大気の気温が0.7℃上昇したこととは相互関連があることをつきとめた。いくつかのシミュレーションモデルでは、このまま現在の二酸化炭素排出量の割合でいけば、今後100年間で地球の気温は2.5℃上昇すると予測されている。
気候変化のシミュレーションモデルから、地球温暖化が農業に与える影響は深刻だといえる。好ましくない気象状況(干ばつ、洪水、酷暑、厳寒、強烈な暴風雨など)により、毎年、農産物の可能生産量の20パーセントが失われていると推定される。北米での気候状況の悪化は、小麦やトウモロコシのような基本穀類の世界への供給に壊滅的な打撃を与えかねないものである。気候変化のシュミレーションモデル制作者は、気温が上昇すると、激しい干ばつや集中豪雨といったさらに猛烈な気候異変を生み出すだろうと予測している。受粉の季節である夏の気温が1℃ないし2℃変化するだけで、花粉の受精能力が失われ、その結果、カラスムギやトマトなど多くの種類の植物が雄性不稔となる可能性がある。
地球の気温が上昇するにつれて、氷河と極地の万年雪が溶け出し、多数の島と海岸地域が水没してしまうだろう。合衆国では、人口の約半分が海岸線から80キロ以内の土地で生活している。海岸線が内陸へ移動するとなれば、制御されずに上昇し続ける二酸化炭素濃度は海岸地域の住人に最も直接的な影響を与えるだろう。仮に温室効果ガスが、今後、数世紀に渡って増え続けるなら、地球の気温は7℃上昇すると推定され、海面は2メートル以上高くなるであろう。
土壌有機物――隔離の鍵
大気中二酸化炭素濃度の通常の季節変動を調べた研究によれば、植物の成長は、大気中の二酸化炭素濃度が10ppmも変化するのに十分なほど膨大な量の二酸化炭素を左右するものであることが立証されている。それゆえに、我々は、植物の生産を増やすことにより大気中二酸化炭素濃度を減らすことができるのである。二酸化炭素濃度は、植物の生育が豊かな夏の時期に最低となり、植物の枯死もしくは休眠期となる冬には最高となる。夏と冬との季節間の二酸化炭素濃度の変動(約10ppm)は、化石燃料の燃焼や森林伐採による大気中二酸化炭素の年間平均増加量
(1.3ppm)の約7倍である。植物は、二酸化炭素吸収装置としての役割を担うのである。炭素が、二酸化炭素として直ぐに大気中に放出されるのではなく、植物、土壌あるいは海洋に貯蔵されることを「隔離」という。地球上の炭素の収支バランスを保つために、我々は炭素の隔離を増やし、炭素の大気中への排出を減らす必要がある。炭素が土壌あるいはバイオマス(一定の空間に存在する動植物と有機物全部)の内外で循環しうる一方で、いわゆる土壌の「腐植」物質(有機物としても知られる)を増加させる方法がある。この腐植物質は、炭素を安定した炭素化合物として何千年もの間存続させることができるのである。
森林や草原が農地に切り替わる以前は、土壌有機物は土壌質量の約6〜10パーセントを占め、今日の通常の農耕システムにおける1〜3パーセントの水準をはるかに上回っていた。世界中で自然の草原や森林が農地に切り替わることで、大気中二酸化炭素濃度は著しく増加した。我々は、森林や農地をもっと肥沃にして土壌有機物を増やすことによって、この過剰な大気中の二酸化炭素を捕え、より自然な地形を維持することができるのである。
農地と森林による炭素隔離は、現在、二酸化炭素が大気や世界の気象状況に与えている脅威を軽減すると推定されている。これらの利点は、エネルギー節約や排ガス規制の取り組みを補うものとなるであろう。現行のエネルギーの利用方法を改善していくことは重要な課題である。なぜなら、もし化石燃料の可採埋蔵量のすべてが今後、数百年間で使用されるとしたら、大気中二酸化炭素濃度は現在の水準の4倍から8倍に増えると推定されているからである(現在、大気中には7,500億トンの炭素が含まれ、また今後のエネルギーの残存量として確認されている化石燃料中には5兆トンの炭素が含まれている)。土壌有機物中にある炭素量は、現在の激減した状態(森林や草原が農地に切り替わることによって土壌中有機物が激減した)であっても(1兆5,800億トンの炭素量)であり、それは現在の大気中二酸化炭素中のすべての炭素量(8,000億トン)のほぼ2倍の量にあたると推定され、地球上のすべての生物の中に含まれる炭素量(6,100億トン)の約3倍である。
土壌、農業そして森林は、激しい気候の変動に歯止めをかける手助けをし、急増する温室効果ガスを隔離するために最も重要な天然資源である。森林の炭素量(5,000億トン)は、大気中炭素量の約85パーセントである。『将来の気候問題のための方策についての概要1998年度版
第12号(1998 Resources For the Future Climate Issue Brief
#12)』には次のように記されている。「世界の熱帯林が減少していることはよく知られているのに対して、世界の温帯林と北方林は僅かずつではあるが拡大していることはそれほど認識されていない……とは言うものの、森林の炭素量が大気中炭素量の85パーセントを占めるということは、言い換えれば、森林が事実上の炭素貯蔵源となっていることを示すので、熱帯林が減少するということは、全体として見れば、地球全体の炭素貯蔵量に対する森林の炭素貯蔵量の割合が低下していると言えるであろう。」
ロデール研究所農耕法比較試験場における研究成果
農業は、現時点において、そしてこれからも、常に炭素隔離の重要手段であり続ける。ロデール研究所の23年間にわたる農業法比較試験場(FST)での研究は、現実の世界に対する経験的知識を提供し、温室効果ガスを削減する農業の可能性を理解するための出発点となるものである。FSTは最も長期にわたって行われている農耕法の実験であり、オーガニック農法と慣行農法との生産システムを比較研究することを目的として企画されたものである。
1981年からロデール研究所は、FSTで土壌炭素と土壌窒素を継続して測定してきた。炭素及び窒素の測定は、ロデール研究所の研究員たちがFSTを23年間行って集めた土壌の質、経済性およびエネルギーに関する一連のデータの一部にすぎない。ロデール研究所の研究員たちは、土壌炭素と土壌窒素に関する調査結果はとりわけ意義深く、また感動的なものだと確信している。
オーガニックシステムでは、土壌炭素が15〜28パーセント増加しており、有意な量の大気中炭素を隔離するこのシステムの能力を実証している。具体的には、FSTの有機肥料システムでは、オーガニック農業を施した土壌では、1エーカーの面積(4,047平方メートル)の土地で深さ1フット
(0.3メートル)の土壌を単位とするエーカー・フットの概念で1年間における土壌中炭素の平均増加量を算出すると約455キログラム/エーカー・フットとなる。すなわち、1年間に隔離される二酸化炭素の量は約1,600キログラム/エーカー・フットである。仮に、米国内でトウモロコシ及び大豆を栽培している1億6,000万エーカーの農地に規模を拡大して算出してみると、従来の低投入型オーガニック農法によってこれらの作物の栽培を行う場合、2,600億キログラムの二酸化炭素が隔離される可能性が得られることになる。さらに、オーガニックシステムでは、土壌炭素が15〜28パーセントに増加した。一方、FSTによる23年間の試験においては、土壌中炭素及び土壌中窒素のいずれに関しても有意な増加は認められなかった。
このことは、オーガニック農法によって貯蔵される炭素量が増加し、その他の栄養物が固定されることを示している。なぜなら、有機質土壌が、植物によって摂取され得るように、それらの栄養物を適所に固定するからである。この過程では、硝酸塩およびその他の栄養物の河川や帯水層への流出が減少する。これらの研究結果は、労力や燃料や灌漑にかかる経費を減らしつつ、収穫量を高める手助けとなり、すべての農家にとって有益なものとなりうる。
この研究結果は、炭素濃度と窒素濃度を含む土壌の質について継続的に測定し続け、最も長期にわたって科学的に繰り返された研究の成果であると我々は確信している。確かにこの研究は、継続期間の長さと、オーガニック農業と慣行農業の土壌における炭素吸収装置としての可能性の比較という点からすれば、トップに位置するものである。この研究は、繰り返し行うことによってオーガニック農業の方法論の炭素隔離の可能性を促進し、さらに壮大なスケールで研究を発展させるための指標を我々に与えている。
土壌有機物としてより多くの炭素を捕捉することに加え、オーガニック農業の生産方法では、燃料をさらに効率的に利用することによって、温室効果ガスの排出も減少するのである。コーネル大学のデビッド・ピメンテル博士によるFSTのエネルギー分析より、オーガニックシステムにおけるエネルギーの使用は、慣行型のトウモロコシや大豆の生産システムで使用するエネルギーの63パーセントにとどまることが示されている。試験されたすべてのシステムにおいてトウモロコシと大豆の収穫量は同じであったが、干ばつのあった年は、オーガニックシステムでは、慣行型のシステムの25〜75パーセントを上回る収穫量があった。干ばつのあった年のオーガニックの収穫量の優位性は、炭素量の多いオーガニックの土壌がより多くの水分を保ち、水分を作物に送る能力があることと明確に関係している。デビッド・ピメンテル博士の研究結果の示すところによれば、慣行型のトウモロコシと大豆栽培システムにおいて最もエネルギーの投入量の多いものはトウモロコシへの窒素肥料の施用であり、次に多いのがトウモロコシと大豆栽培のいずれにおいても散布される除草剤であることが示されている。
オーガニック農業は、経済的にも成り立つものである。オーガニック農業は投入するための経費を減らすだけでなく、メリーランド大学のジェイムス・ハンソン博士が行った経済分析の結果より、FSTのオーガニックシステムでは、オーガニック価格にプレミアムをつけなくても、慣行農業のトウモロコシや大豆による収益に対する競争力があることが示された。実際、農家は認証を受けたオーガニック生産システムを活用することによって、世界オーガニック価格プレミアムの恩恵を受け、多額の政府補助金がなくても経済的に成り立つ収益を得ることができるのである。
どういうわけで、投入量が低いにもかかわらず、オーガニックシステムが、化学製品を大量投入することを基本とする慣行型システムに対して、競争力のある生産力をつけることができるのであろうか? 米農務省の科学者デビッド・ダウズ博士は、ロデール研究所の科学者との共同研究で、オーガニックシステムでは、菌根菌の働きを生物学的に助ける仕組みが極めて強固であり、菌根菌はより広範に繁殖し、より活動的且つ多様化していることが明らかになっている。合成化学肥料や農薬は菌根の働きを阻害する。オーガニック生産システムでは、増殖した菌根菌の盛んな活動により、植物の土壌資源への働きかけを活発にし、それによって、植物の栄養摂取と吸水能力、またある種の植物病原体に対する抑制力を高めるように植物を活性化するのである。
菌根が炭素を隔離する過程と能力には、おそらく、もっと大きな重要性があるだろう。菌根菌は、グロマリンと呼ばれる接着剤のような新規に発見された物質を作り出す。グロマリンは土壌粒子の団粒化を促す。土壌団粒は、土壌の炭素固定機能を増強することになる。土壌の炭素固定における菌根菌とグロマリンの役割にはなお一層の研究が必要である。土壌が自然に炭素を隔離する更なる可能性を引き出し、土壌の性質を高めるその他の生物学的メカニズムについても、同様により一層の研究が必要とされている。
炭素隔離がもたらす恩恵
ロデール研究所のFSTのオーガニック圃場試験における隔離された炭素の存在というものは、健康な土壌の指標となる。なぜなら、健康な土壌には、炭素を含む物質、特に有機物質である腐葉土が豊富に含まれているからである。干ばつの時期に、健康な土壌に保水を可能にさせているのは腐葉土なのである。腐葉土はまた、土壌内に見られるリン酸塩や硝酸塩のような移動し易い栄養物質を保持しており、もし腐葉土がなければ、これらの栄養物質は雨水となって川や帯水層へ流出し、失われてしまうであろう。
これらの試験は、環境保全と経済的利益の両面が密接に連携してうまく機能することを実証するものである。その経済的利益を実現させるのは、化学肥料、エネルギー燃料、灌漑に関わる経費の削減、また同時に収穫量の増加を目の当たりにしている、農家と土地所有者である。特定の土壌管理と耕作実施によって、土壌中の炭素の隔離あるいは固定が促進され得るということは、農業ビジネス経済にとっても経済的に有益であり、また我々人類すべてにとっても環境面で有益である。さもなければ炭素は温室効果ガスの一成分として大気中に失われてしまうであろう。
以上を要約すると、オーガニック農業により二酸化炭素排出量の37〜50パーセントを削減し、農家の経費を削減し、私たちの地球が温室効果ガスを積極的に吸収し活用する能力を高めることができるのである。これらの方法によって、社会全体にとってはもとより個々の農家にとっても受ける恩恵は極めて多大である。これは多方面に恩恵をもたらし、しかもほとんど何の危険も伴わない勝利へと導く手段である。これら実証済みの方法を用いることによって、現在の環境被害を軽減し、未来の世代のためにより清潔で安全な世界を地球上に拡大していくのである。
次なる段階へ
ここ数ヶ月、ロデール研究所の職員は、ペンシルバニア州農業・環境保護部門の役員と会う機会をもった。現在私たちは協力して「共同声明」の作成に取り組んでいる。それはどのようにしてオーガニック農業が経済面や環境面で重要な恩恵をもたらすことができるかということについて、将来の研究と教育に関する実施要項を提供することになるだろう。FSTの圃場試験で実施されてきた22年間に及ぶデータを使って我々はこれまでに集められてきた知識を普及し、体系化する方法を今後探究していく予定である。近年、同様に世界中の研究者たちも土壌中の炭素と栄養物の隔離の可能性を調査、研究し、文書による立証作業を始めた。この分野の研究をリードしていくために早急に行動を起こすことが肝要である。
まず第一に、
現在ある科学文献全体の再検討を提案する。それは土壌中の有機物質形成を促進する方法があるのかどうかを判断するため、また炭素と栄養物隔離の割合を予測することができるのかどうかを判断するためである。さらに、廃鉱や自然保護区にまでこの適用を広げて、人が手を加えた土壌において、炭素隔離が評価されうる可能性の有無という重大な問題についても、解決したいと考えている。
第二に、土地所有者が有機質土壌の管理を実地に適用し、可能な隔離の量を定量化できるような手順書の作成を提案する。その結果として、土地所有者が、炭素と栄養物の流通市場に参入できるようになるだろう。そうなれば、有機質土壌の管理実施を採用するための財政的奨励措置が取られることになるであろう。
第三に、外部の科学技術団体、教育機関、研究機関や、農業関連機関との交流、連携、協力を通じて、土壌中の炭素吸収装置に関する「知識ベース(知識の蓄積、共有、探索、獲得、推論を体系的かつ効率的に実現するための基本的な枠組みを与えることを目的としたシステム)」を広く知らしめることを提案するものである。
以上述べたことは、農業管理や土壌管理を行なっている地域社会に住む多くの人々が見た観点から新しい分野として出現してきたものである。圃場試験から得られるデータは記録である一方で、どのようにしてこの知識をもっと広い市場で、もっと多用途に利用できるようにしていくかについて我々が考える以前に、なされるべきことはたくさんある。とはいえ、今日までオーガニック農法が温室効果ガス削減に有効であることが実証されてきたことは意義あることであり、オーガニック農業のさらなる活用への促進を行う一方で、オーガニック農業が増加する温室効果ガス削減に役立つことを約束するものである。
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