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ジェイソンの世界オーガニック冒険の旅
毎回一つの農場を体験し、そこでの生活を学ぶ


大いなる目覚め
故郷のオハイオより160万キロの彼方に聳えるヒマラヤの山頂を想い、ジェイソンは今回の旅を振り返ります。旅の任務は果たせたものの、出会った人々の偉大さによって彼の決心はすっかり変わりました。

ジェイソン・ウィトマー


日は沈み、また昇る
アジアの冒険旅行は終わっても、ジェイソン・ウィトマーにとってオーガニックを追い求める本物の旅は始まったばかり。
写真上:ヒマラヤの山々に暮れていく夕日。

 

 


世界の頂上から: ジェイソン・ウィトマー(右)はヨーロッパとアジアの農場を訪ねる6ヵ月の旅を終えてオハイオ州の自宅に戻りました。写真上:インドのチャンドラシラ山頂に立つジェイソンとデレク。

ジェイソンの冒険はどのように始まったのでしょうか?

ジェイソンの世界オーガニック冒険の旅:

イントロダクション:
オハイオの旅人、“世界草の根”ネットワークの農業通信員としてデビュー

はじまり::おじいさんの農場の手伝いから、2つの大陸を渡ってオーガニック農場への滞在まで

タイ東部: 農家、建築家であり、余暇を楽しむ人でもあるジョン・ジャンダイと出会います

ラオス: 過去の化学肥料による農業が、この農家にオーガニックにこそ未来があると確信させるにいたった経緯

タイ: “アソック”活動―タイの仏教徒が築くオーガニック農場と持続可能なコミュニティ

インド: インドの農家、荒涼とした大地にオーガニックのオアシスを造る

インド: 緑の革命から再生へ

ヒマラヤ: 西洋人は 侵入したが西欧化はなされず

スペイン: スペインのワイン産地における雑草そして伝統との闘い

 

 


も終わりに近づいた頃、私は「月の山」チャンドラシラ山の、標高3,000mあたり、雪が所々に残る山腹に腰を下ろしてぼんやり物思いにふけっていました。その朝、デレクと私はガイドのクンダンの案内で、四月が訪れたヒマラヤの、赤やピンクのつぼみがほころぶシャクナゲの木々の間を抜けました。段々になった崖をよじ登り、標高が高くなるにしたがって細くなる凍てついた小川の浅瀬を歩きました。昼過ぎになって私たちはチョプタにたどり着きました。チョプタは、石造りの小さな家々の集落で、一軒以外は冬の間空き家になっていました。私たちは、そこに住むインド人男性が石と日干しレンガ積みの暖炉で沸かしてくれた紅茶を飲み、米、レンズ豆やチャパティ(小麦など練って平たく焼いたパンのようなもの)をご馳走になりました。

冒険旅行希望者はいませんか?
農場巡りの旅に出る予定がありませんか? もしくはそんな人に心当たりがありませんか? 新たな農業の物語(記事)が近々生まれそうならお知らせください。 グレッグ・ボーマン (greg.bowman@rodaleinst.org)

午後は予定がなかったので、チョプタから半キロほど山を歩いて大きな岩の上に腰を下ろし、太陽が、雪を頂く峰々に向かって西に傾き、巨大な赤い玉となって灰色の厚い雲の向こうに滑り込んでいくのを眺めていました。聞こえてくるのは雪解け水の囁きと、はるか彼方のうつろな槌の音だけでした。私は、ここで沈みいく太陽が、世界の反対側で地平線の下から顔を出し、霜の降りたオハイオのトウモロコシ畑に夜明けが訪れているその様を思い描いていました。

私が大学卒業後に世界を旅して回りたいと思ったのは、まだ進路が決まっておらず、またなんとなくコンパス(方位磁石)を頼りに西にしばらく行けば何か別のものに辿り着くような気がしたからでした。ひょっとしたら平和部隊に入ろうとか、国連で職を捜そうという気になるかもしれない。少なくとも、人と出会い、新鮮なマンゴーにありつくには良い方法だろうと思えたのです。しかしチャンドラシラ山の山腹に座っていると、出会ってきた農家の人々が私の魂に入り込み、はっきりとした、しかも思っても見なかった方向に私を引き寄せ始めていることに気が付きました――家に帰って野菜を作りたくなっていたのです。

この数ヶ月間私は、金銭的に報いられていようと無かろうと、地域の人々に受け入れられていようとなかろうと、自分の世界を少しずつ救済している農家、自分が愛し信じることを行うために世間の逆風に抵抗している農家に出会ってきました。彼らは自らの食べ物を自らの手で育てています。自分たちが住む家を自分たちで建てています。生態系を再生し、そして古き伝統を復活させているのです。

チームワーク:: アソックの会員たちは機械に頼らない農法でお金を節約し、連帯感を高めています。写真はアソックの若者たちが雑草を抑えるための干草を敷いているところ。

そうすることで、彼らは昔ながらの農耕法が人々に力を与え、なおかつ環境にもやさしいことを証明しています。アジアには何千年にもわたって、洗練され持続可能であった自給農業の伝統があったのです。そこへ植民地主義が市場経済をもたらし、多くの人々はドル紙幣と引き換えに自立を手放しました。換金作物を育て、化学肥料などを使用し始めるようになるか、そうでなければ田畑を完全に捨てていきました。

けれども私が出会った農家の人々は皆、過去のやり方には知恵と豊かさがあることをわかっていました――それは何百キロもの彼方から運ばれて来たものではなく、農薬や化学肥料を使用していな地元産の作物を食べ、そして他人の下で9時から5時まで働くのではなく、土地と共に生き自分の手で自らの生活をなすというやり方なのです。ミスターTは、子供時代を過ごしたラオスの村で、絹の生産と織物を復興させています。彼の農場は、荒地を再生する一方で、地元の女性たちに職を提供しています。タイではアソックの会員が機械に頼らない農法を行って、お金を節約しており、コミュニティを犠牲にすることはありません。

蘇る絹作り: タノンシの働きで、子供時代を過ごした土地の土と経済は蘇りました。
写真上:ミスターTと絹用の桑の木

 

バンコクで何年も臨時雇いの仕事をした後、故郷の農場に戻ったジョン・ジャンダイは、自分の若い頃のように、皿洗いの仕事なんかをしに都会に移り住む必要などないことを人々に知って欲しいと思っています。自分たちの食べるものは自分たちの手で育てることができ、テレビも、最新の台所用家電も、またはお金のかかる農薬や化学肥料なども必要がないのです。「そんなに一生懸命に働かなくたっていいんですよって、みんなに伝えたいですね。」と彼は教えてくれました。「もっと怠けたっていいんですよ。」と。

自分の米を自分で育てること、またレンガの家を作ることの良い点を、私はジャンダイから学んだのですが、仕事というより、遊びのように楽しんで行える感じがします。たとえ、片時も休む事なく動き続けているようでも、彼の心はのんびりとしていて、恵まれていると感じるのです。

私はジャンダイのような人々と出会うことで、オーガニック農家というのは、単に化学肥料の使用を放棄しただけで今までと変わらないやり方を続けている人のことではない、ということが解るようになりました。彼らはエネルギッシュで、代替農法を見出す創造力にあふれる人々です。よく平和主義者は受け身な人々だと誤解されます――単に暴力を排除するだけで、いざ戦争の時には何もしないと。しかし本物の平和主義者、例えばガンジーやマーティン・ルター・キング牧師は、調停や市民的不服従などのような暴力に代わる独創的な手段に積極的に取り組んでいるのです。同様に、私が出会った農家の人たちも、単に農薬や化学肥料抜きでやっていくことより、美しいものを創り出すことにもっと関心を持っているのです。


アロエ畑:
世話をしなくてもアロエが自らの力で育っていくことに気付き、ミスターTは自然に逆らうのはやめようと決心しました。

インドのビジェイ・シャーのように、多くの人々は、農業に対する姿勢を完全に転換し、自然環境に対する果てしない暴力の連鎖に没頭するよりも、土を理解し土と共に働くことを模索しています。シャーはシロアリに殺虫剤を撒く日々を何年も送り、心配で眠れぬ夜を過ごしていました。その後彼は、シロアリが実は彼の農場にとって良い働きをしていることを悟りました。今では、枯れた植物体の分解過程の担い手であるシロアリを彼はマイベストフレンド(一番の味方)と呼んでいます。オーガニック農法がもはや一般的に行われなくなってしまっている現代では、こういう農家は「実践から学ぶ」ことで、創意工夫を行っていく必要に迫られました。私は、この表現を誇らしげに使う大勢の農家に出会いました。ミスターTもその中の一人でした。彼は近隣の村の道に落ちている牛の糞を拾い集めていた頃の話をしてくれました。当初人々は彼を笑い者にしていましたが、彼はそんなこと気にしないよと言わんばかりに両手を上に向け肩をすくめるジェスチャーを見せて、作業を続けていたのです。

今、人々はミスターTの言葉に耳を傾けています。ミスターTは、化学肥料よりも牛糞肥料の方が優れていることを、地元の人々や政府の役人にも説明してきました。ジャンダイはレンガの家に関連した発明をしたり、建設をしたり、監督をしたり、そして指導したりと、多大な時間を費やしてきたことで有名になりました。アソックの会員が年に何十回も主催するオーガニックのワークショップは、タイ全土の農家に影響を与えています。

その日の夕方、私は山の上に腰を下ろし、人々の自立性、創造力、そして行動力について思いをめぐらせていました。またタイ、ラオス、そしてインドの人々はいろいろな意味でアメリカ人よりも豊かであることについても考えました。私たちには確かに財力があります。しかし同時に孤独、肥満、高血圧を憂い、なおかつ世界中の資源の90パーセントを消費してしまうライフスタイルでもあるのです。私は彼らから見たら明らかに外部の立場の人間ですが、彼らの生活を見ていると、彼らが持っているもの、つまり、地域のつながりや伝統、地元産の食べ物を彼ら自身が守っていってくれることを私は願ってやまないのです。広告で生活に必要だと宣伝しているアメリカ製品を買えるように、工場での仕事を求めて、家や畑を捨てていかないで欲しいのです。

私は、今回の旅で見て来たことを通して、オーガニック農業は生態系を再生させ、人々の暮らしを向上させることを知りました――たとえ先進国の経済がもたらす贅沢さがなくてもです。そして、特に私のような先進国の経済と関わりのある者こそが、オーガニック農業を実行していく責任があるように思えました。私はへリア先生の言葉を思い出しました――「オーガニック農業は世界中を救うことができるんです。」

ヒマラヤの岩の上で私は一人、その言葉を呟き、空腹を感じながらも膝を抱えて、真っ赤な太陽が凍りついた峰々に融けこんでいくのを眺めていました。この時以来、私は、この夏地元オハイオのオーガニック農場を訪ねる計画をし、ピッツバーグのミルドレッド・ドーターズ・オーガニック農場 で秋の実習生としての職を引き受け、そして父を手伝って自宅前の菜園でトマト、玉葱、スクォッシュ、ピーマン、キュウリ、ほうれん草、そして大豆の世話をするようになっています。

ジョン・ジャンダイ: オーガニック農家で非凡なレンガ建築家。
写真上: ジャンダイがデザインし建てたレンガの小屋

早朝の光の中で雨に湿った芝生の雑草を抜きながら、私はふと気づくとよく東の太陽の方を眺めているのです。チャンドラシラ山で、同じあの燃える火の玉が西の山々の上を転がっていくのを眺めている自分の姿を思い描くのです。岩の上に立って、まぶしさに目を細め、目の上に右手をかざしていると、微かに見えてくるのです。タイでジョン・ジャンダイがレンガを積む姿が。ラオスのミスターTがお客と桑の実のパンケーキを食べながらおしゃべりをしている姿が。アソックの会員が手作り豆腐を作っている姿が。ビジャイが名前をつけている家宝のインドナツメヤシの木で働くシロアリに見とれている姿が。へリア先生がオーガニックで育てた牛の尿の恩恵を説いている姿が。そして段々畑の広がるスペインの丘でトラクターに乗っているロン・ボイドの姿が。

優れた農家であることに加えて、この人たちは哲学者であり、教師、活動家、発明家であり、そして開拓者なのです。彼らは、自分が愛し、信じることを行うためにリスクを負っているのです。ありがとう、あなたたちが教えてくれたすべてのことに。世界に希望を与えてくれたことに。そして明確な目的によって進むべき方向を示してくれたことに。私はもう二度とコンパスを使う必要はありません。

遠く西の果てまで行き着くと、結局は故郷に帰り着くのです。


編集者より
もしあなたの旅が素晴らしいものだったなら、あなたが良く知っているはずであった「故郷」を、新たな目で見ることができるのです。今回のコラムでジェイソンの2003年世界冒険の旅は終わりです。スタッフと読者を興奮させ、充実感を与えてくれた初の世界農業旅行記でした。ありがとう、ジェイソン。筋肉痛で体中が痛い時も、蚊がブンブン飛び回っている時も、そして頭の中でアジアの農業のイメージが衝突し続けている時もくじけず書き続けてくれて、本当にありがとう。

 


 
 


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