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人はなぜ農業をするのでしょうか
仕事は汚く、そこには儲けもないのに、何ゆえ農家の人たちは農業を続けるのでしょう

ウォード シンクレア

 
土を暖める:一面に広がった、黒いビニール製のマルチと一緒に写るウォードさんとキャスさん。後々、この黒ビニールが必要不可欠なものとはいえ、ウォードさんの人生をひどく痛ましいものにしてしまうことになろうとは…   ファーマーズ・マーケット:1992年、色々なじゃがいもを売るウォードさん
 
編集者注:

ウォード シンクレアは専業農家になるために、1989年にパートナーのキャス  ピーターソンと共にワシントンポスト紙の記者としての地位を離れました。2人は1983年にはフリッカビル・マウンテン農場&グランドホッグ・牧場を購入していました。――それはペンシルベニアのフルトン郡にある265反の荒れ果てた農場でした。その後5年間2人はワシントンポスト紙でフルタイムの仕事を続けながら、短時間の耕作をしていました。その後1989年に専業農家になり、オーガニック野菜の卸売業者、レストラン、ファーマーズ・マーケットに販売をし、そして最終的には2人が「定期販売サービス」と呼んだやり方で顧客に販売したのです。後に2人は、こういった毎週の野菜配達はCSA(地域支援農業)と呼ばれる海外で始まったマーケティングのアイデアのひとつであると知りました。2人の農場はアメリカ合衆国におけるCSAのうまくいった初めての例のひとつでした。ウォードは1989年から1992年までワシントンポスト紙の食べ物を扱う欄に農業に関するエッセイを書きました。ここに転載されたエッセイはそのひとつで、1992年11月22日に書かれたものです。ウォードは1995年に亡くなるまで農業を続けました。

 

 

 

それは全くみじめな秋の日の全くみじめな仕事で、ぬかるみの中で四つん這いになって のろのろ進みながら、その農夫は何故自分はこんな生活のために都会での暖かく安楽な暮しを捨ててしまったのか尋ねる権利があると思いました。

その仕事は毎年、収穫物が取り入れられる秋に行われなければなりませんでした。――すなわち、土を暖め、湿度を保ち、雑草を抑える、細長く黒いマルチを取り除く作業です。その「市場向け野菜畑」はこのビニールなしでは管理できないようなのですが、それが農家の悩みの種になっています。

ビニールの端は土の中に埋められていて細かく引きちぎれてしまいます。そのビニールをはずすために筋肉は精一杯働き、土ぼこりや泥があちらこちらに飛び散ります。その農夫のひざは傷つき、肩と腕は痛み、彼はまるで泥のかたまりのようです。その人は思いました、何故こんなことに悩まされているのだろう。こんな嘆きを必要とするのは誰なんだ、と。

しかし、ビニールを取り除く作業が終わる頃には感謝祭が近づいてきていて――それはまた一年の、種まきをし、育て、作物の収穫をするというサイクルが完了することを意味するのですが――その農夫は自分の運命をより良い展望をもって十分考えることができるのです。

その農夫は毎年結果を出すという挑戦に随分慣れてきたので、もう一度机の前に座って、以前の様に簡単な仕事で高い給料をもらうということには考えおよびもしませんでした。

ここ「市場向け野菜畑」には机はありませんし、報酬も多くはありません。しかも仕事は決して容易なものではありません。しかし、その仕事はどんな人にも何か生き生きとしたものを与えてくれます。――それは成功するのも失敗するのも自分の責任だという自由があるということです。物事がうまくいかなくても、他の誰を責めることもできないし、逃げ隠れもできません。しかし、やがて友人および見知らぬ人が、その農夫と彼のパートナーがこの小さな土地で働いてつくった成果を見にやって来て、その人たちもまた、人は何故こんな苦労のために比較的楽で豊かな都会での仕事を自ら進んで捨ててしまおうとするのだろうと尋ねるのです。

答えはたくさんありますが、最もわかりやすいものは――そして農夫は全ての人が彼の経験を通じて収穫を祝ってくれることを望んでいるのですが、――食物を育てることは最も崇高でしかも最も基本的な使命の一つであるということです。今は少々もったいぶった言い方に聞こえるかもしれませんが、その農夫はそれが真実であることに気づいたのです。その人はまた、あのいやなビニールを引っぱることは、この最も閉鎖的なサイクルのために払わなければならない代償の一つだと気づくことになったのです。そして、そういう意味ではその作業のわずらわしさはより減少するのです。

さて、農家の生活のあまりに多くが当然信心深さで成り立っていると思われていて、そしてそれはしばしばその通りなのですが、たいてい四つん這いになってする作業のことを知らない都会の住人によってそう思われています。しかし実際、市場向けの野菜畑の中での生活については、何か聖職者的な要素はあるのです。

ここに自分が存在していて、自分がキーパーソンという役割を担っている非常に小さい宇宙の一部になって、その農夫は何か偉大な力が人類全てを導いていることに気づき、この力に逆らって働くことを選ぶ人たちに「おやおや」と言っていることに気づいたのです。こういうことがわかっているということは慰めでもあり安らぎでもあります。

その農夫は、春が来たばかりの健全な土の不思議な香りを言葉で述べることはできません。彼は土の表面から伸びている、最初に芽を出した種子を見たときの感動をはっきり述べることはうまくできません。ひどく感傷的な言葉を使わずに、作物が繁っている時に畑の中にある豊かさや、彼が感じる大自然との調和により引き起こされた喜びを表現することはできないでしょう。

全く知らない人たちが、自分の作ったトマトやブロッコリーをほめてくれる時感じる喜びを言葉で表現する方法も知りません。しかし、そのようなほめ言葉は、彼が別の人生の中で念入りに書き上げたニュース記事に対して受け取ったかもしれないどんな賞賛よりも意味のある大切なものになってきているのです。

不思議なことにこういったことは全て、ほとんど偶然にその農夫のところにやってきたのです。例えば、どうすれば人間というものは偉大な力と調和しながら働くことができ、その力のためにますます良い状態になれるのかを示すインスピレーションを与えてくれる人物たちと出会いながら、何年も地方を旅することは感動的な経験でした。

最も良い状態で、最も生き生きとし、最も成功しているのはたいてい第2の職業として農業をすることになった人達だということを認識することも大切です。そういう人たちは過去の農業世代の先入観と悪い習慣にとらわれる事がなかったからです。そしてその先入観と習慣は大企業による農業により延々と続いてきたり、遺伝子的なレベルで伝わってきたりしたのです。その認識が小説家ルイス・ブロムフィールドの作品をないがしろにはしませんでした。ブロムフィールドは、生まれながらの農夫でも農夫であるべきでない人もいれば、生まれながらの農夫でも人生で何か他のことをやった後でなければそのことに気づかない人もいると言いました。

そこで、友人の助けと励ましにより私たちは農業を始めたのです。――そして一度も後ろを振り返りはしませんでした。たとえ寒い秋の日にビニールのかたまりと格闘しながらぬかるみの中にひざまでつかっていたとしても…

 

 


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